架橋

通り道、帰り道。どこまでも続くような 橋の上。

渡れたら、忘れたら。

知らない 遠い何処かへ 行けたら。

 

誰かの所為 だとか、誰かのため だとか、

繰り返し くりかえし、君は嘯いて、

昨日を投げ捨てて、明日を諦めたように、また閉じた瞼の裏側ーー

 

百万色に砕けた 君のかけら。

まるで星のように、瞬きを繰り返した。

 

百万色のモノクロに色褪せた いつか見た夢を

今でもパレットに、ならべて描く。

この虚ろで、鮮やかな 世界のすべて。

 

通り雨、俄雨。いつの間に降り始めた 橋の上。

戻れたら、思い出せたら。

傘の差し方と、なにか だいじなもの。

 

空を仰いでみた。誰か思ってみた。

繰り返し、くりかえし、そして 俯いて。

微かに残るような 少し痛みに似た なにか、

握り潰した 手のなか、

 

百万色に壊れた 君のかけら。

まるで砂のように、指の隙間 擦り抜けた。

百万色のモノクロに彩られた 君が生きる意味。

今でも パレットに描き続ける。

この虚ろで 鮮やかな、世界のすべて。

 

Φ

 

百万色に砕けた 君のかけら。

まるで星のように 瞬きを繰り返して、

百万色のモノクロに彩られたーー

 

百万色に壊れた 君のかけら。

まるで星のように、音もなく 輝いて。

百万色のモノクロが、色になる。

いつか見た 色に。

今でも、パレットにならべて、描く。

 

この不完全で、

完全な 世界のすべて。

 

(ナタ「1000001colors」より)

 

☆私の見解

・Aは、「君」とのあの日を、何度も思い出してしまう。

・あの日とは、「君」が抱えた悩みを抑えきれず、Aに涙を見せた日であり、Aにはなぜ「君」が泣いたのか、判れなかった。ただ、「君」の流した涙は、Aには忘れられないくらいきれいなものに見えた。

・Aは今も、あの日を思い返しては、「君」の涙の理由を探し続ける。何か判りそうで、捉えあぐねる。

・Aは何度も繰り返した螺旋の中で、あるときふと、「君」のこころとシンクロする。「君」とのあの日が、まるで今起こっている出来事のように、色鮮やかに思い出される。

・Aは今、あの日の「君」を作品にしている。Aだけのイメージが、あの日の「君」の想いが誰かに伝わるように、あるいは、自分が納得のいくくらいこの作品に表現できるように。

 

☆表現とレトリック

→Aと「君」のこころをつなぐ思い出や記憶。Aは無意識のうちにここに居て、あの日の真相を知りたがっている。

 

昨日を投げ捨てて、明日を諦めたようにまた閉じた瞼

→「君」があらゆる手を尽くした上で達した絶望を形容している。今までの努力が一切報われず、自分ですらそれらに意味を見いだせなくなってしまった。

 

君のかけら

→君の流した涙の一粒一粒。これらはなぜかAにどうしようもなく美しく見えた。

 

通り雨、俄雨

→あの日を思い出すことで生じるストレスや悲しみで、「君」の涙でもある。これが妨げとなり、Aは橋を渡りきれずにいる。

 

モノクロ

→あの日の不完全な想起。

 

パレットに描き続ける

→実際に絵を描いている、あるいは、この歌を作っていることの比喩か。

 

この虚ろで鮮やかな世界のすべて

→「あの日」を完全に思い出せないことへのわびしさと、それでも美しいと思えてやまない僕の主観が入っている。

 

ーー(ダッシュ

→まさに今、歌を作っているこの瞬間にあの日を完全に思い出す。Aの目にも涙が流れる。橋を渡りきり、あの日の「君」の涙の真相に辿り着く。Aと「君」に虹の架け橋が架かる。

 

この不完全で、完全な世界のすべて、1000001colors

→「君」を判り得た今も、Aは自分の心の外に表現できるように、誰かに伝わるようにあの日を描き続ける。心に残る百万色の完全な思い出を、不完全であるからこそ限りのないこの世のあらゆる色を使って、それ以上に鮮やかに描けるように。

 

架橋

 橋は、何かと何かをつなぐ、文字通り端と端を繋ぐ性質を持っています。小説や映画などの場面で出てきたときは特に注意して読んでみると良いでしょう。感性豊かな物書きであれば、そこに何らかの意図を持たせているはずです。本詞の冒頭、Aが橋にいるのは、無意識に「君」の心情を理解しようとしているからと捉えることが出来るでしょう。

 幼いときの記憶はだんだん色褪せたり、思い出せなくなっていくものですが、その中でも何故か思い出したり、夢に出てくるものがあったりします。また、成長すればするほどいろんなことを冷静に、客観的に、多角的に捉えられるようにもなります。それらが奇跡的に相互作用してなんでもなかった思い出から、あの頃の自分や、あるいは誰かの気持ちや考えに辿り着けたとき、その人にしか出来ない成長を果たし、名状しがたい達成感に包まれるのでしょう。

 もしかすると、あの日判り得なかった出来事は、存外幸せの鍵であるのかもしれません。

 

2018年8月10日 ばろっくどーなつ