死生

日々 拙くも 吐き出す歌、いつか見たような 夢。

永く 深い夜を超えるよ、

君に 逢えるように。

 

このまま ここで、じゃあね。

何もない日々へと、想いはとうに 逸れた。

 

忘れられるように!

 

それでも、君の声が呼ぶほうへ

踵を浮かして、さ。

いっそ笑い合い、消えようか。

そのほうがいい、よな。

 

坂の上には君が居て、僕を待ってるんだ、って、

誰に何度伝えたって、聞こえやしないんだ。

 

Φ

 

さよなら、と 手を振った、何もない日々へと。

明日は、そこで消えた。

 

思い出せる かい?

 

それでも、君の声が呼ぶほうへ

胸を弾ませて、さ。

いっそ 上も下も失くして、溶け合ってこう、ぜ。

 

あの丘の果て迄、

手首を隠して、さ。

きっと 笑い合い、消えてしまっても、

僕らは、

 

(古川本舗「魔法」より)

 

※以下は私個人の見解と感想であり、想像と推察の域を出ません。

☆私の見解

・See more glass

・「僕」は「君」と死別している。

・「君」の死からある程度月日が経過している。

・「僕」は「君」の死から立ち直ろうと努力したが、それは逆に自分にとって「君」がかけがえのない存在であることを気づかせた。

・「僕」は「君」がいるであろうあの世に行きたがっているが、躊躇っている。あの世にいくか、この世に留まるか、ではなく、あの世にいくか、まだあの世にいかないか、で決めあぐねている。

・少なくとも「僕」の側からは、この世にほだしとなる他者は存在しない。傍から見れば狂人で、「消える」ことも彼からすれば死ぬことではない。そう思えてしまえるほどに「僕」の中にはずっと君が居るのである。

 

☆表現とレトリック

日々拙くも吐き出す歌

→「僕」の気持ちを言葉にしようとして、「僕」としては捉えあぐねて納得のいっていない失敗作か。「僕」はこの果てない昇華を成就しないと半ば気づきながら続けている。

 

永く深い夜を超える

→夜は君を思い出してしまう辛い時間か。それを超えようとする試みを今まで、そして今も続けている。

 

君の呼ぶほう、坂の上、丘の果て

→今「君」が居るであろう、この世では無いどこかである。

 

忘れられるように!↔思い出せるかい?

→「僕」は、死別を乗り越えようとして、あるいは自分を守ろうとして「君」を忘れようとした。だが、そうすればそうするほど「君」への想いは募っていく。そして、この歌詞を書いている今、「君」を、「君」との日々を再度思い出そうと試みている。

 

踵を浮かして→胸を弾ませて→手首を隠して

→身体的な部分から精神に近い部分に推移していることから、より無意識から意識になっていることを表すか。手首は脈や命の比喩だとすれば、「僕」は生に対してもはや価値を感じておらず、それを超越しようとすらしている。

 

消えようか、上も下も失くして溶け合ってこうぜ、消えてしまっても

→君の居ないこの世への否定的な感情が読み取れる。おそらく「僕」は死を死と捉えておらず、この世から「消える」ことで君と再会を果たそうとしている。

 

僕らは、

→この世から「消える」ことで、君と再会できるかもしれないと考えているが、僅かな理性と、この世での人生が幸せであったかどうかを考え、結論を出せずにいる。これにより悲願を達成できずにいる。あるいは、筆者が死を肯定するような「僕」の結論を明確に示すことを避け、あくまでも結末を読者の想像に委ねたか。

 

魔法

→一つは「君」が「僕」にかけた魔法。「君」をどうしようもなく思いだしてしまえること。あるいは、「君」に逢いたいあまり、非現実的な考えまで至ってしまえること。

もう一つは、現実では理解し得ない現象。「僕」の思考と結論、境地。

 

死生

 この曲に出逢ったとき、たぶん本当の意味で、自分にとって音楽や歌詞が、かけがえのないものになったんだと思います。 

 私は物心つく前に母親と死別(おそらく病死)しており、それまでの記憶が殆ど、ありません。当時の自分はーー弱くて、現実が受け入れられなくて、だから、忘れることで自分を護ったんでしょう。当時の私はやはり悲しかったのか、ずっと泣いていたということだけは、父から聞いたことがあります。まァ、今となってはそれも思い出せないんですが(苦笑)。別にずっとそれを抱えて辛い、とか鬱屈な気分になる、というわけでもないし、父や祖父母からその穴を埋めるくらい大切に育ててもらったこともかけがえのない経験だと思うのです。ただ一つだけ。ふとした折に、今まで忘れていたお母さんを思い出せたら。今なら、きっと今なら、どんなにそれが辛くても、幸せなことに思えてならないのです。そんなふうにこの空白を抱えて生きていくんだろうなァ。

 

2018年8月9日 ばろっくどーなつ