彼岸

膝小僧 丸め込み、まあるい井戸の向こう側、 潜り込み 手を開く。固く眼 瞑って―― 百年に一度だけ光る 暗がりに 水が溢れ出す。 遠くの手を そっと 握る。 「ここはとても寒い、よ」 暗がりの河 渡り、日照りの中 彷徨って―― 行かなくちゃ。笛が、僕を呼ぶ。…

普通

昔、むかし あるところに おじいさんとおばあさんが、 小さな家で つつましく暮らしていました。 川で洗濯しているとき 大きな桃が流れてきたり、山で柴刈りしているとき 輝く竹を見つけたり、・・・なんてこともなく、平穏な毎日を過ごしていました。 同じ…

黄昏

降り注いだ 冷たい雨、青い傷を 溶かしていった。いつか見ていた 夕暮れ空の 隅っこで笑う 誰かが居た。 気づかないうちに オトナになって、綺麗な嘘 口に出来るほど、いろんな痛みを覚えてきたけど、それでも、まだ 痛いんだ。 夕暮れの、涙が出そうな 赤。…

微力

涙があふれた。 涙があふれた。 君のこと 好き、と 云えずに、ゴメン。 夜空が にじんだ。 夜空がにじんだ。 君のこと 好き、と云えずに、ゴメン。 ムズカシイ言葉なら、考えつくけど、タヤスイ言葉の方が 云えない、って 思う。 ため息をついた。 ため息を…

架橋

通り道、帰り道。どこまでも続くような 橋の上。 渡れたら、忘れたら。 知らない 遠い何処かへ 行けたら。 誰かの所為 だとか、誰かのため だとか、 繰り返し くりかえし、君は嘯いて、 昨日を投げ捨てて、明日を諦めたように、また閉じた瞼の裏側ーー 百万…

死生

日々 拙くも 吐き出す歌、いつか見たような 夢。 永く 深い夜を超えるよ、 君に 逢えるように。 このまま ここで、じゃあね。 何もない日々へと、想いはとうに 逸れた。 忘れられるように! それでも、君の声が呼ぶほうへ 踵を浮かして、さ。 いっそ笑い合い…